剣は折られた。逆説的アグニカ・カイエル像!

今回の会報も、寄稿して頂いたものとなります。

まさかの連チャンに喜びを禁じ得ない……嬉しい……嬉しい……!

そういう訳で、早速本文へどうぞ。


アグニカ・カイエルを愛する、同志諸君!

この会報に寄稿できることを光栄に思う!


今回の会報は、折れない剣『バエル・ソード』が折られたという真実から、逆説的に『アグニカ・カイエル』の人物像を考察していく。


残念ながらマクギリス・ファリド事件として我々の闘争が終わった今、真実の名を明かすことはできない。


だが私は確信しているんだ、ギャラルホルンの真理は今もここにあると。


<主張>

『THE LIFE OF AGNIKA KAIERU』に語られる王者の如き人物像は、政治的動機によって執筆されたものだと考える。マクギリスの示した孤高の存在などではなく、アグニカ・カイエルは協調性を強く持っていた人物だということをここで主張したい。


まず、アグニカ・カイエルに最も精通し、魂に認められた男、我らがマクギリス・ファリドの言葉をはじめ、現存する資料を借りて、伝説として語り継がれる彼の人物像を整理する。


<人物像1:強い個人>

絶望的な少年時代を過ごしながらも、書物で知ったアグニカの思想を支えに、出自に左右されない純粋な力で優劣が決まる世界の実現を目指したとされるマクギリス。


競争原理を根底に誰もが自分の力次第で憧れを実現できる社会をアグニカ・カイエルは目指していたとも解釈できそうだ。「力の象徴、暴力だ!!」とマクギリスが叫んだように、力という言葉もアグニカの人物像を考える上で重要なキーワードとなる。そして、天使を狩る悪魔として「強い個人」であったことはセブンスターズの面々からも肯定されている。


<某資料:信頼できない語り手>

“二振りの剣が<バエル>の主力装備として認められたのは、<阿頼耶識システム>を通し、アグニカ・カイエルがMSとの完全な一体化を果たしていた確固たる証拠でもある。人間離れした超反応、超機動を実現したアグニカにとって折れない剣に勝る武器は存在しえなかった。”

ガンダムバエル(HG)説明書より


<人物像2:孤独な王者>

そうして天使を狩り尽くし英雄となったアグニカ・カイエル。名実ともにギャラルホルンの頂点に君臨する。


ギャラルホルンに身を置くものならば彼の力の美しさは理解できるだろう。そして『THE LIFE OF AGNIKA KAIERU』に記された彼の王者の如きカリスマ性に憧れを抱くのは当然の義務なのだった。


そして革命の終幕となったあの時、戦線離脱の案内役を引き受けたトド・ミルコネンなる人物が明かしたマクギリスの残した言葉。「王者とは孤独なものだ。そして孤独とは自由。」この孤高の存在、アグニカ・カイエルこそが、我々の答えとなったのだった。そう、あの剣が折れたことを知るまでは。


<某映像:信頼できる事実>

経年劣化がほとんどない超硬度レアアロイ製の太刀によって、それ以上の特性を持つと考えられる特殊超硬合金製のバエル・ソードは折られた。


<逆説>

折れない剣を喧伝していた語り手は信頼できない。この世界で語られている定説には偽りがある。


上記のことを踏まえ、ギャラルホルンが二律背反の様相を呈してきた理由と併せてアグニカの人物像を考察する。


<ギャラルホルンの矛盾>

当時セブンスターズが「ギャラルホルン」に於ける最高決定機関だった。北欧神話に由来する家紋を持つ家の7人の当主による世襲によって維持され、彼らの合議でギャラルホルンは運営されたのだ。


私はまず貴族社会特有の価値観が根付いていたガエリオでさえマクギリスの政治観に同調していた点に注目する。


マクギリスは過去に以下のような趣旨の発言があったとされる。「ぬるま湯の合議制をとりながら世界を支配するなど、そんな二律背反に問題意識をもつものがいないのが今のギャラルホルンの異常さだ」


『武力を以って武力を制す世界平和維持のための暴力装置』ギャラルホルン。警察国家的な強権を行使しながら、民主国家的な合議制をとる。その矛盾はどこから来たのだろうか。


革命によりバエルを手にしたマクギリスはこう高らかに宣言した。「ギャラルホルンを名乗る身ならばこのモビルスーツがどのような意味を持つかは理解できるだろう!ギャラルホルンにおいて、バエルを操るものこそが唯一絶対の力をもち、その頂点に立つ!席次も思想も関係なく従わねばならないのだ!アグニカ・カイエルの魂に!」


ギャラルホルンを作った男がアグニカ・カイエルならば、『ギャラルホルンの法』、『ギャラルホルンにしかわからないルール』の策定には、当然、彼の理念、思想が反映されているものと考えるべきである。


この法とルールがアグニカ・カイエルの生前に施行されたのであれば、例外規定がない以上、彼が玉座に興味を示さないような民主的な人物ではなかったのだと考えるのが自然だ。


さらに、彼の死後その理念と思想から策定、施行されたとしても以下のことは少なくとも言える。話すまでもなくバエルのコックピットは単座式である。それは、バエルを操るものが「世界を支配する」存在であり、かつ「ただ1人だけ」ということを、このルールは明確に規定している、ということだ。


つまり順序や道理のうえからいえば、ギャラルホルンは君主国家的な独任制をとるのである。


だが独任制はとられなかった。さらにいえば統裁合議制すらとらなかった。マクギリスの言葉を借りればまさに「異常」であり、アグニカ・カイエルの魂への反逆行為とさえ思える。


<矛盾から導かれるもの>

300年後の世界でさえ、バエルはセブンスターズから中立を引き出し、我々革命軍の青年将校においても「正義」の拠り所として命を賭すだけの真理を示してくれた。


そう。厄祭戦終結期において、現人神、生きた伝説であったアグニカ・カイエルの理念と思想に、その後のセブンスターズ、そしてギャラルホルンが背くことなどできるはずがない。


だが事実、セブンスターズには合議制だけが置かれていた。アグニカ・カイエルは独任制を強制するだけの力を有していながらそれを望んでいなかったことになる。そして統裁合議制すらなかったことは、彼が独任制を否定する立場だったことを窺わせる。


私は謎多き、アグニカ・カイエルについて、人類を救う実力を有していたのは確かだが、マクギリスの主張や伝説とは異なり、実際には孤独な王者などではなく、協調を重んじる人物であったのではないかと考察する。


<アグニカの本意>

マクギリスはギャラルホルンの価値観形成についてこう述べている。「人類は自然であらねばならぬ…。そんな価値観はギャラルホルンが意図的に広めたものだ。厄祭戦で進化した技術が自分達に反旗を翻す道具になって使われる事を恐れてな。」


最高権力を掌握するために必要なプロセスは、人体改造を受け入れバエルを起動させること。だが当のギャラルホルンは『人体改造は悪』という価値観を地球圏に広く提唱し技術を衰退させた。そしてその中心地、ギャラルホルン地球本部ヴィーンゴールヴ内、『バエルの祭壇』に本機は祀られていたのだ。


バエルは後に救世主の機体として神格化される。王権神授説をルールに盛り込むと同時に、バエルの起動条件となる阿頼耶識をボトルネックとすることで、君主国家的な独任制を封じることを画策していたのではないだろうか。


後世のマクギリスが指摘していたように、世界を支配するのであれば、冷酷な独任制こそふさわしい、という人物が登場することは目に見えている。


だが旧暦の戦争を知るものの中には根強い反対派も存在したはずだ。人類種の未来のためにさまざまな組織や派閥の人間たちを集わせたアグニカ・カイエル。ヴィーンゴールヴ宣言によりP.D.(ポスト・ディザスター)という名の暦号をはじめさせた男が、王者として歴史の針を巻き戻そうとするだろうか。


文字通り、覇道を行くには『アグニカ・カイエルの魂』に認められなければならない。そしてその心は、元より認めるつもりなどなかったのだ。


<結論>

それは人間の協調性、異なった環境や立場に存する人々が互いに助け合ったり譲り合ったりしながら同じ目標に向かう素質を、アグニカ・カイエルは大切にする人物だったからに他ならない。


<蛇足>

最後にカイエル家がない理由についても言及しよう。君主国家の権利継承は世襲によって行われるのがセオリーである。バエルのルールと禁忌の阿頼耶識。マッチポンプの舞台に、愛する子供を登場させるわけにはいかなかったのだ。


王者として語られるアグニカ・カイエルの伝説は、その名の通り童話の親戚に過ぎない。



(記:きりか)


寄稿して頂き、ありがとうございました。


私の思いつかなかった独特な切り口から考察が展開されていて、新しいアグニ観を見い出しました。

確かに、アグニカが孤高の王者だったら仲間を集めないし、ギャラルホルンを作ろうとも考えないでしょうな……マクギリスの言ってたことって、一体何だったのか……。

しかし、前回の考察でも思いましたが、どうもギャラルホルンの体制とアグニカが結びつかないんですよね……あまりにも正反対な感じがしてなりません。

ギャラルホルン創設前後で何が起こったのやら、と気になって来るところ。


人体改造(阿頼耶識)の禁止は、厄祭戦時のコクピットブロックを残すバエルを動かせなくする為=ギャラルホルンに唯一無二のトップが現れないようにする為のものとも言えると……なるほど、やはり他の方の考察は参考になりますな。


改めまして同志きりか様、寄稿をありがとうございました。

アグニ会では、引き続き会報の寄稿をお待ちしております。詳細については「会報の寄稿について」をご覧下さい。


つくづく私も働かねば……しかし、次は予告したまま結局出せてない自語りだからなぁ、前回と今回のような参考になるアレではないよなぁ。

アグニカみを高めてタカキも頑張ってたし、俺も頑張らないと!



(記:管理人N)